2017年03月09日

巨大なハサミを振り回す、干潟のちびっ子「シオマネキ」

遠浅の海岸で、潮が引いたときに現れる砂や泥の浜。これを「干潟(ひがた)」といいます。
一見、生きものはあまりいないようですが、そうではありません。じっと動かないようにしていると、小さな穴のなかからカニたちが次々に出てきて動き出します。なかには、巨大なハサミをぶーん、ぶーんと振り回している不思議なカニも。これが干潟の個性派「シオマネキ」。
こうらの幅がたった2㎝ほどの小さなカニです。干潮時、沖縄の海辺に行けば、このかわいい生きものに出あえるかもしれません。

沖縄の干潟は、シオマネキ観察に絶好のフィールド!

海の生きものが好きなら、ぜひ、干潟に出かけてみましょう。とくに、夏の暑い時期がおすすめ。干潟のいたるところに小さなカニがいるのを見つけられることでしょう。
そうしたカニのなかでも、とくにじっくり観察してみたいのが「シオマネキ」です。日本のなかでも、格別よく見られるのが沖縄。巨大な白いハサミが目を引く「オキナワハクセンシオマネキ」、子どものときはオレンジ色や黄色で、大人になると茶色くなる「リュウキュウシオマネキ」、ハサミも甲羅も鮮やかな紅色の「ベニシオマネキ」、ハサミや甲羅に小さくて茶色い水玉模様のある「シモフリシオマネキ」など、数種類のシオマネキが沖縄の干潟で暮らしています。同じ干潟で、いろいろなシオマネキの仲間を見られることも少なくありません。

子ガニのとき、左右のハサミは同じ大きさなのに…

どの種類のシオマネキも、驚くほど巨大なハサミをダイナミックに振り回すのが特徴です。その様子が、「潮よ満ちてこーい、満ちてこーい」と、まるで潮を招いているように見えることから、「シオマネキ(潮招き)」と名づけられました。
シオマネキのハサミは、その体に比べるととんでもなく巨大ですが、大きいのは片方のハサミだけで、しかもオスにしかありません。オスもまだ小さなころは、左右のハサミの大きさは同じ。ところが、甲羅の大きさが5ミリ前後まで成長したころ、自らあっさりと、左右どちらかのハサミを切り落とします。そして、残ったほうのハサミがどんどん大きくなっていくのです。
一方、切り落としたほうにも、新たなハサミが生えてきますが、こちらは成長しても小さいまま。こうして、左右がものすごくアンバランスなハサミの持ち主になるのです。左右のどちらが大きくなるかといえば、ほぼ半々の割合。人間とは違って、“右きき”が多いというわけではないようです。

「潮を招く」ような動きは、メスに対するプロポーズ

シオマネキの「潮を招く」ように見える不思議な動きには、いったいどういった意味があるのでしょうか。「おれはこんなに強いんだぞ!」とまわりをおどかしているのでしょうか。あるいは、「ここはおれの縄張りだ!」と主張しているのでしょうか。力強い動きから、こうしたことをアピールしているようにも見えますが、どちらも正解ではありません。
シオマネキのオスが、一生懸命にハサミを振る姿を見てほしいのは、同じオスではなくメス。「ほら、ぼくはこんなに大きなハサミを持っている。立派でしょう!」というプロポーズなのです。メスがそのダイナミックな動きに魅力を感じたら、オスの巣穴にいっしょに入って繁殖行動をします。多くの生きものは、オスがメスに積極的にアプローチしますが、シオマネキも同じなのです。
巨大なハサミは、はさむ力がそれほど強いわけではありません。あくまでも求愛行動をするのが目的で、闘いや狩りのために進化したわけではないのです。シオマネキが生きていくのに本当に大切なのは、じつはもう片方の小さなハサミ。こちらのハサミは先端がスプーンのような形になっています。シオマネキはこのハサミを器用に使い、泥や砂をすくって口に運び、そのなかに含まれている栄養分を取り入れます。少しすくっては食べ、少しすくっては食べ…この動きもなかなかかわいいものです。
シオマネキならではの求愛行動や食事の様子を、ぜひ沖縄の干潟で見てみたいものですね。

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Writer紹介

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田中 浩之

編集工房リテラ代表。高知県在住。足摺岬近くの海で泳ぎと潜りを覚え、磯で海洋生物に親しむ。坂本龍馬が泳いだ鏡川で渓流釣りをし、段々畑で畑仕事も行う自然派ライター。生物や歴史、園芸関係などの書籍を多数編集執筆。観光ガイドブック、行政の広報誌などの編集も行う。